Column

心のケアと癒しに役立つ臨床心理のここだけのお話

Updated on 2024/ 1/ 30

Vol.29 : 心理セラピストが回答!「子育てQ&A」~子どもとうまくコミュニケーションを取るには~

カリフォルニア州で活動する心理療法士が、子育てに関するご質問に回答します。
Q

思春期を迎えた息子を持つ母親です。特に中学生になってからはっきりものを言わず、何を考えているか分かりません。どうしたらうまくコミュニケーションを取れるようになるでしょうか。

A
親との会話が子どものストレスになっている?

冒頭から厳しいことをお伝えしますが、「子どもの気持ちが分からない」と言う親御さんほど、お子さんに対して自分の意見を押し付けている方が多いです。コミュニケーションというよりも、「勉強しなさい」「ゲームは止めなさい」などと一方的に言いたいことだけを伝えていませんか? 親にしてみれば子どもを心配しているだけ。けれどお子さんにとっては親との会話、つまりコミュニケーションそのものがストレスと感じるのです。

中学生になると学習内容が難しくなり、勉強量も増えてきます。アメリカであれば親御さんがオンラインで子どもの成績や宿題を確認できるので「宿題やってないじゃない。なんで?」と問い詰めてしまいがちです。人間の脳は「嫌なものは避けたい」という特性があるので、子どもが嫌なことばかり言う親とはコミュニケーションをしたくないというのは当然のことなのです。親と話すことがストレスになってしまうので、次第に家では口数が少なくなり、「今日学校で何があった?」といった普通の問いかけにもおざなりな返事になってしまいます。

子どもとコミュニケーションを取るコツとは

しかし、これは親御さんのせいではありません。特に日本人はコミュニケーションスキルを学ぶ機会がないので、実は多くの方が人とうまくコミュニケーションを取れていないのです。

子どもとうまくコミュニケーションを取る1つ目のコツは、「自由に話をさせる」ということです。例えば「学校どうだった?」では、親御さんの言いたいことしか伝えていません。代わりに「今日学校で一番楽しかったことは何?」と聞いて、お子さんに自由に話をさせてあげてください。

そして2つ目のコツは「本音を伝えること」です。親御さんが日常生活などで子どもを心配するあまり、いろいろと言ってしまう気持ちも分かりますが、ただ怒ったりするのではなく、その根底にある本音を伝えることも大切です。「勉強しろ、大学に行け」という言葉の裏には、多少の親のエゴはあったとしても「いい人生を送ってほしい。幸せになってほしい」という気持ちがありませんか?けれど、それを子どもに伝えずに、ただ「良い成績を取って良い大学に行け」というばかりでは争いの火種になるだけです。

自分の気持ちを伝えた後は、お子さんにどんな風に感じたのか聞いてみましょう。良い大学に入ることは、果たしてお子さんに取って幸せなことなのでしょうか?何を考えているのか、何がしたいのか聞いてみてください。「なんとなく」といった感覚的な感じもよいのです。それをより深く掘り下げていきましょう。

子どもの言い分を理解し自分の考えを伝える

ただし、「理解する」ことと「同意する」ことは違います。これを一緒にしている人は少なくありません。例えば親御さんが「大学に行きたくない」と言うお子さんと話し、いろいろと理由を聞いた後「あなたの大学進学に対しての考えは理解できた。でも親としては、その理由で大学に行かないのは同意できないよ」とここで考えを伝えてください。そして、さらに子どもの意見を聞いてください。

大人でも、誰かと話をしていて「自分の言っていることを聞いてくれない、理解してくれない」ということが何回も続くと、「この人とは話してもムダ」と思ったことがあるはずです。しかし、相手が自分を理解してくれたという実感は人にとって非常に大切で、これがないと信頼関係は築けないものです。

子どもにとって、親とのコミュニケーションは、今後の友人関係、職場での関係、結婚相手との関係などに大きな影響を与えることがあります。意外に簡単なように見えて「子どもに自由に話をさせる」「子どもに親の本音を伝える」というのは案外難しいものだと知っておくだけでも大きな進歩になると思います。

ぜひ、今日からお子さんにいろいろ質問してあげてくださいね。

Updated on 2024/ 1/ 30

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info@internationallifecycle.com

Columnist's Profile

インターナショナル ライフサイクル ファミリーセラピーInternational Lifecycle Family Therapy Inc.

CA州心理士免許(LMFT)と博士号を持つ経験豊かな2人のセラピストによる心理カウンセリングオフィス。多くの方々のより良い心の健康を目指し、個人、カップル、家族の心理セラピー/カウンセリングを日本語および英語で提供している。仁科盛次郎(心理療法士、LMFT#50945)および菱谷有希子(心理療法士、LMFT#53262)はCA州公認のマリッジファミリーセラピストで、専門は家族・カップル間のコミュニケーション、異文化や多文化における問題、思春期における心理やアイデンティティ問題、薬物依存治療など。多種多様な家族療法を取り入れたアプローチや、物の見方を変え解決方法の発見へと導くアプローチ、催眠療法などの潜在意識セラピーを提供。また、両者ともに移民難民、性犯罪にかかわる青少年更生、薬物リハビリテーション施設での経験を持つ。大学院講師としての活動及び後輩育成にも精力的に取り組んでいる。Youtube「カリフォルニアから心の癒しチャンネル」にて心にまつわるビデオ公開中。

International Lifecycle Family Therapy Inc.

1101 South Winchester Blvd. Suite P-296 San Jose, CA 95128

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