“原始反射の持続” は、今までいろいろな研究により 『振る舞い障害 (Behavioral disorder) 』 や成長のマイルストーンの遅れと関係があると言われています。
さらにこの原始反射が原因で、不器用さ、動作の不調和、変な姿勢、異常な歩き方などのような 『動作運動障害』 が起こるとされています (動作運動障害は多くの認識障害のもとになっていると言われています)。 『自閉症 (Autism)』 『ADHD』 『学習障害 (Dyslexia)』 など、ほとんどの脳・神経の発達障害症は、上記のような動作運動障害、認識障害や遅れ、そして原始反射の持続が関係しているということです。
つまり原始反射の持続が、脳・神経の発達障害症の早期の症状として現れるため、何もしないでおくと自閉症 (Autism)、ADHDや他の発達障害に進んでしまうことになります。
脳の発達と原始反射の関係
新生児の頭蓋骨のサイズは大人の4分の1で、脳は約370g。 それが3才で3倍の1,080gになり、6才から14才で1,350gになります。 また頭蓋骨のサイズは、2才で大人の75%、10才で95%まで発達します。 その後、脳の機能の発達は思春期まで続きますが、この脳の発達を促すには、子供たちが動く事によって環境と反応・競合して脳細胞を刺激することです。
新生児には生まれたばかりのときは筋肉の力がありませんが、出生時に備わっている原始反射により、反射で自動的な動きを起こして、筋肉の強化と生き残るために必要な基本動作を学びます。 原始反射は基本的な動作により環境と反応・競合することで、感覚器を成長させて環境の情報を脳にフィードバックし、大脳の前頭葉を刺激し成長を促します。 前頭葉が発達すると原始反射は抑制され消えたようにみえますが、1年くらいこのようなことを続けて、それからもう少し高度な姿勢反射に取って代わることでより複雑な動きを学んでいくのです。
しかし何らかの理由で、前頭葉がダメージを受けたり機能不全が起こった場合は、抑制されていた原始反射がまた現れることがあります。 これを 『フロンタルリリースサイン (Frontal Release Sign) 』 と言います。 この原始反射の持続は自閉症、ADHDなどによく見られる症状と言えます。 前頭葉の発達の遅れ (原始反射の持続による) は、後々に起こる運動機能の遅れ (ハイハイ、歩きなど) に繋がります。
人間の脳の特徴として、ラテラライゼーション (Latararization) があります。 ラテラライゼーション (Latararization) とは、脳のある部分が発達するにつれて特定の機能に対して中枢としての役割を持っていくことです。 つまり特定な動作役割は脳のこの部分が中心となって働くようになること、さらに色々な中枢部分が協調する様になり、複雑な動きや作業が可能になっていきます。 ラテラライゼーション (Latararization) は年令と共に発達していくので、これは脳の成長の度合いを示す良い指標となります。 成長の遅れのある脳は、このラテラライゼーション (Latararization) がうまく働かず、脳の中枢としての役を果たしていないのです。
また右脳左脳は、交代で発達していくことがわかっています、生まれてから2~3年は右脳が先に大きく育ち、その後左脳が2~3年育つというように、右左と交代で成長していくことになります。 成長をしている最中に原始反射が続いていると、脳の各中枢同士の結びつきがうまく行われなくなり成長の遅れという結果になります。
原始反射の種類
- 1. モロ反射 (Moro Reflex)
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子宮内9週目に現れ、出産時には完全に機能しています。 生後2ヶ月から4ヶ月目で抑制されます。
【モロ反射 (Moro Reflex) の引き金】
- 突然の出来事
- 頭部の位置の急激な変化
- 大きな騒音
- 光の急激な変化または急激に動く物体が視界を横切るなど
- 痛み、気温の変化、乱暴に扱われる
- モロ反射は唯一五感全てと深く関係しているので残っていると影響が大きい
【原始反射が残っているために起こる症状】
- バランス感覚の狂い。例えば乗り物に酔いやすい、スポーツをしている時の体のコーディネションやバランス異常がある。
- 目の運動異常。本来は一度焦点または注意を集中した時に、目の端に動くものを捕らえてもいちいちこれを追わないように大脳が抑制する事が出来るのですが、これが出来なくなります。これは集中力がないように周りからはみえます。
- 瞳孔反射が鈍くなり、明るい光に対して過敏になり対応できなくなります。白い紙に黒いインクで印刷されたものを読むのが苦手になります。蛍光灯の下にて過ごすと疲れやすい子供になります。
- 聴力が過敏になりすぎる。
- 免疫能力が下がり、耳、鼻、のどの感染症にかかりやすくなる。
- 薬物への過敏症を起こす。
- スタミナがなくなる。
- 環境の変化に対応できなくなる。
- 現実離れをした不安感がある。
- 刺激に対しての過剰反応、例えばムードスイング、筋肉が常に硬直しているなど。
- 周期的な多動症その後に続く疲労がある。
- 決断力の欠如
- 自己評価の低下
- 2. 手掌把握反射 (Palmar Grasping Reflex)
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子宮内11週目に現れ、出産時には完全に機能しています。 生後2ヶ月から3ヶ月で抑制されます。
【原始反射が残っているために起こる症状】
- 手先が不器用になる。
- つまみ方が下手になるので鉛筆やペンの持ち方が不器用である。
- 口の筋肉の成長が遅れるので話すことに支障が出る。
- 手のひらの感覚過敏症がある。
- 手で物を書いたり、動かしたりするときに口も一緒に動いてしまう。
- 生後5ヶ月を過ぎても反射が残っていると、手先で細かい動作をする能力の発達が遅れてしまうため、後にきちんとしたペンの持ち方が出来なくなる、物を書く事に問題が出る。
- 口先と手の筋肉の動きが連動してしまい話し方がおかしくなる。
- 3. 不対象強直性頚部反射 (Asymmetrical Tonic Neck Reflex)
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生後18週目に現れ、出産時には完全に機能しています。 生後6ヶ月で抑制されます。
自閉症の子達に長い事残っている原始反射です。
【原始反射が残っているために起こる症状】
- 頭を左右に動かすと腕や肩の筋肉も反応してしまうのでバランスに問題が出る。
- 歩行、マーチ、スキップをするときに同じ方の手足が出てしまう。
- 目で物を追っていくとき体の中心を越せない。つまり物を追っていく際、右から左へいくことが中心点を越して出来ない。
- 利き目、利き耳、利き手、利き脚が一定しなくなる。
- アイデアを紙に書いて説明できない。字を書くことが苦手になる。
- 4. 哺乳反射、吸引反射 (Rooting and Suck Reflex)
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子宮内24週から28週に現れ、出産時には完全に機能しています。 生後3から4ヶ月で抑制されます。
【原始反射が残っているために起こる症状】
- 唇の周り、口の過敏症がある。
- 舌が口の前側に位置してしまうため、食べ物を噛むときや飲み込むときに不自由する。
- しゃべり、発音に問題が出る。
- 手が不器用になる。
- 5. スパイナルガラント反射 (Galant Reflex)
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子宮内20週目に現れ、出産時には完全に機能しています。 生後3ヶ月から9ヶ月で抑制されます。
【原始反射が残っているために起こる症状】
- 落ち着きがなくなる。
- おねしょをする。
- 集中力がなくなる。
- 短期の記憶力が落ちる。
- 歩くときの股関節の動きがおかしくなる。
- 6. 緊張性迷路反射 (Tonic Labyrinthine Reflex)
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出産時には完全に機能しています。 生後4ヶ月には抑制されます。
- モロ反射と関係が強く、両方ともバランス感覚器が支配をしているので、この感覚器からの刺激、つまり頭や体のポジションの変化によって機能します。
- 乳児が体を真っ直ぐにするサポートを行います。さらにバランス感覚を訓練します。
- 頭の動きにより手足が反応してしまうので、ハイハイ等をしようとするときにうまく出来ない。
- 空間に自分がどの様な状態でいるか、奥行きなどの感覚が悪くなる。
- 研究によると、75%の学習障害の子供達にこの反射が残っているそうです。
- この反射が消えないと、次に起こる正向反射 (Righting Reflex) の発達を妨げる事になります。
【原始反射が残っているために起こる症状】
- 姿勢が前かがみになる。
- 筋肉の弱体化または反対に筋肉の過剰な緊張がある。
- バランス感覚が悪い。乗り物に酔いやすい。
- バランスに不安があるのでスポーツや体育の授業が嫌いである。
- 目の動きに問題が出る。
- 物事を順番にやってゆく事が苦手である。
- 時間の感覚がおかしくなる。
- つま先立ちで歩く。
- 物事をまとめて考える事が苦手である。
- 7. 対象強直頚部反射 (Symmetrical Tonic Neck Reflex)
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生後6ヶ月から9ヶ月で現れます。 生後9ヶ月から11ヶ月で抑制されます。
【原始反射が残っているために起こる症状】
- 悪い姿勢、特に座ったとき前かがみになる。
- 前かがみになりサルのように歩く。
- 脚を外側にWのようにして座る。
- 手と目のコーディネションが悪くものを食べるのが下手である。
- 不器用である。
- 目の焦点を調整する事がうまく出来ない、例えば授業中黒板を見てから直ぐ自分の手元を見ようとするとうまく焦点が合わなくなる。
- 水泳が苦手である。
- 座っていても注意力が散漫になる。
- まとめ
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原始反射とは、型にはまった自動的な動きです。 脳幹 (Brain Stem) により支配されていて起こる現象で、大脳は関係をしていません。 つまり考えなくても自動的におきる動きです。 原始反射はまだ筋力がない赤ちゃんが運動能力を訓練するため、また生きるために大事な能力を身につけるためにあるのです。 しかし原始反射は、いつまでも継続して存在するものではなく、ある一定期間で大脳の成長により抑制されてなくなるのが普通です。 もし原始反射が生後6ヶ月から12ヶ月になっても残っているようですと、中枢神経の成長不全が起こっている状態になっているということになります。
これらの原始反射が脳の成長と共に抑制されなくなっていくにつれ、次の成長段階である姿勢反射 (Postural Reflex) が現れてきます。 これについては次回に他の成長の過程と共にご説明します。