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「許そう」と頭で思っても、感情はすぐには消えてくれません。過去の出来事に対する怒りや悲しみ、不安は潜在意識の奥深くに残っており、簡単には手放せないのです。例えば交通事故に遭った経験がある人が、「あの人がちゃんと運転していれば」「自分があの道を通らなければ」と、何年もその記憶に縛られていることがあります。事故の事実は変えられませんが、それにまつわる感情や見方は、変化させることができるのです。自分や他人を責め続けることは、心のエネルギーを消耗させ、人間関係を閉ざし、自分をより苦しめてしまいます。しかし、このダメージに気付くことすら難しいのが現実です。だからこそ、「私は、自分（または他人）にどんなダメージを与えているのか？」を丁寧に見つめ直す必要があります。それが心の癒しのプロセスにつながるのです。

では、どうやって心を癒すのでしょうか？それは、自分の内側にある「リソース」とつながることです。「内なるリソース」とは、安心感を与えてくれる記憶や存在、あるいは想像上の導き手（ワイズアダルトやスピリチュアルガイド）など、自分の力を回復させてくれるものです（詳細は「第46回：心と体はつながっている～『内なるソース』で心の中の力を活かす」）。例えば、「もし、私が大好きだったお祖父ちゃんが今そばにいたら、なんて言ってくれるだろう」と目を閉じて想像してみる。あるいは、仏さまやイエスさまなど、自分にとって心が落ち着く存在に語りかけてみる。そんな行為が、怒りや悲しみを手放し、心を癒すきっかけになります。「もういいんじゃないか。十分苦しんだよね」。自分では許せなかった思いが、別の視点から見ることで、少しずつ変わっていくのです。感情を消すのではなく、「選択肢」を増やしていくこと。それが「許し」の第一歩なのです。

日々の暮らしの中で、癒しの習慣を持つことも大切です。嫌なことが起こったとき、私たちは反射的に怒ったり、落ち込んだりしてしまいます。そんな時こそ、夜、少し落ち着いたときに、5分でもいいので時間を取って振り返ってみましょう。瞑想をしたり、自分に「どうしてあんなに怒ってしまったんだろう」と問いかけてみてください。また、相手に「ごめんなさい」と伝えたり、自分自身に「傷つけてごめんね」と言ってもよいと思います。そのような小さな行動が、自分をすぐ責めてしまう「自動反応」を変える訓練になっていきます。癒しとは、決して忘れることではありません。感情や記憶にちゃんと向き合い、「もうこれは自分に必要ない」「手放してもいい」と自分で決められるようになること。たった数分のセルフケアが、自分の心を守り、次の日の生き方を変えてくれるのです。

怒りや悲しみは、自分自身や周囲に目に見えないダメージを与えますが、「内なるリソース」とつながることで、私たちは「反応する」のではなく、「選ぶ」ことができるようになります。つらい出来事に対し、「これは自分にとって学びの機会だったのかもしれない」と新しい見方を選べる日が来るかもしれません。そこには正解も不正解もなく、「自分の潜在意識が感じたこと」が全てなのです。「許す」という行為は、簡単なことではありません。時には「許さない」と選ぶことであっても、尊重されるべき一つの選択です。大切なのは、それを「自分で選んだ」と思えること。そして、その選択の中で、自分の感情を丁寧に扱い、少しずつ手放していくことです。

癒しのプロセスは、自分が人生の主導権を取り戻すための道のりです。怒りに飲み込まれそうになったら、どうか目を閉じて、自分の内なる声に耳を澄ませてみてください。「もういいんじゃない？」と優しく語りかける声が、きっとそこにあるはずです。

「許す」という行為は、過去を忘れることでも、感情を消すことでもありません。自分や他人への怒りや悲しみを丁寧に見つめ、少しずつ手放していく。そしてこの過程そのものが、傷ついた心を癒すことにつながります。そのためには、安心感をもたらす「内なるリソース」とつながることが大きな助けになります。瞑想や振り返りの習慣を通じて、自分の感情を受け入れ、選択できる自分になること。それが、自分らしい人生を築くための第一歩になるのです。