まるわかりハーグ条約

ハーグ条約は国境を越えた子どもの移動に関する条約です。多くの皆さんに正しく知ってもらえるようにコラムを執筆します。ぜひお読みください。(本コラムはロサンゼルスの事例を中心に紹介しています。)

2020年12月 8日更新

面会交流と手続きの流れについて

別々の国にいる親と子どもが面会できない状況を改善し、親子の面会交流の機会を確保することは、子どもの利益につながると考えられることから、ハーグ条約は、親子が面会交流できる機会を得られるよう締約国が支援をすることを定めています。面会交流は、家族が離婚等によって離れて暮らすようになったとき、子どもが離れて暮らす親(非監護親)と直接会ったり、メールや電話をしたりして、コミュニケーションをとることを言います。今回は面会交流の申請や申請後の流れについて説明していきたいと思います。

≪ 架空のケース ≫

米国人男性のジョンさんは、日本人女性の花子さんと子どもの3人で日本で生活していましたが、花子さんとの離婚が成立し(親権者は花子さん)、花子さんと子どもは日本で、ジョンさんは米国で別々に離れて暮らすことになりました。離婚の際には、ジョンさんが米国に戻った後も、子どもとの毎週のオンライン通話や夏休みなどの長期の休みには子どもと米国で過ごすことなどの取り決めをしました。しかし、米国に戻って以降、その約束は守られていません。子どもの年齢は10歳です。

このケースにハーグ条約は適用されるか?

ハーグ条約が適用されるためには、①子どもの年齢が16歳未満、②子どもと申請者が現在別々の国にいること、③面会交流ができなくなる直前に子どもがいた国(子どもの常居所)と申請者が今いる国の両方が条約の締約国であること、④子どもの常居所の法令に基づき申請者が面会交流をする権利があったにもかかわらず、現在、子どもとの面会交流が妨げられていること、などの条件があります。

このケースの場合、①子どもは10歳、②子どもと申請者は別々の国におり、③日本と米国はそれぞれハーグ条約の締約国、④ジョンさんは親権者ではないものの、子どもと面会交流をする権利は持っているにもかかわらず、現在、子どもと面会交流をすることができていませんので、ハーグ条約の対象になります。

注:日本では離婚後の共同親権が認められていないため、子どもの親権者はどちらか一方の親になります。日本国民法(第766条第6項)では「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と定められており、親権者でない親であっても、子どもと面会交流をすることができる法的な立場にあることになります。

子どもとの面会交流の実現を目指すためには~ジョンさんが取れる方法

ジョンさんが子どもとの面会交流を希望する場合、条件が当てはまればハーグ条約の中央当局の支援を受けることができます。ハーグ条約の手続は、子どもと面会交流ができない親であるジョンさんが申請を行うことにより始まります。

まずジョンさんは申請書を米国中央当局(国務省:U.S. Department of State)に提出します。米国での審査後、日本中央当局にジョンさんの申請書が送られます(直接、ジョンさんが日本中央当局に申請することも可能です)。

日本中央当局は、ジョンさんの申請書を受け取った後、援助を行うか否かを決めるための審査をします。援助決定とは、子どもとの面会交流が決まった、という意味ではなく、問題解決のために中央当局がジョンさんと花子さんに支援することが決まったことを意味します。援助決定に関する審査には2週間程度の時間を要します。基本的な手続きの流れ及び問題解決の方法については、返還援助申請と同じになりますが(「ハーグ条約ケースの手続の流れ」参照)、子との面会交流に関する裁判手続きは少し異なります。子との面会交流に関する裁判は、原則として日本国内における家事調停事件及び家事審判事件の手続に則って行われます。

中央当局が行う面会交流支援

日本の中央当局は、父母の双方が家庭裁判所、裁判外紛争解決手続機関(ADR機関)及びその他の手段により、面会交流の実施に関して同意した場合、面会交流が円滑に実施されるよう、面会交流支援機関を紹介し、支援機関を利用して親子が面会交流をする際の費用を一定の限度で負担しています。子どもと一緒に住んでいない親と子どもの面会交流をさせたいが、最初から親子だけでやりとりをすることに不安がある場合は、面会交流支援機関を利用することができます。支援を受けるためには、日本の中央当局により援助決定がなされていることが必要です。

具体的な流れは以下のとおりです。

  1. 面会交流支援機関は、父母の双方と個別に準備面接を行い、面会交流に関する当事者間の同意の内容を確認し、支援の条件等を当事者に説明した上で、支援が可能かどうかを判断します。日本の中央当局が面会交流支援機関の利用費用を負担するのは、1事案につき最大8回(対面での面会交流4回及びオンライン面会交流4回が上限、対面の面会交流1回をオンライン面会交流1回に振り替えることが可能)です。
  2. 面会交流支援機関は、面会交流を実施する日の当日に子どもを引き取った上で子どもと一緒に住んでいない親に引き渡したり、面会交流の現場に付き添ったりします。子どもの受け渡しや付き添いの際には、面会交流中の親が事前の取り決めを守っているか確認を行い、守られていない場合には注意をします。父母間で連絡を取り合うことが困難な場合には、当事者に代わって面会交流支援機関がそれぞれに連絡をとり、日時、場所等の調整を行うこともあります。
  3. インターネット上の会議室のようなところに関係者がアクセスして面会交流を行うオンライン面会を行える機関もあります。これは、インターネット環境と端末(パソコン、タブレット、スマートフォンなど)があれば、参加者が一定期間特別な費用負担をすることなく、専門家の関与を受けながらインターネット上での面会交流が行えるものです。専門家は、子どもの表情や言動を観察しながら、子どもの感情などに配慮した介入をします。例えば、参加者が不適切な言動をした場合、画面上で警告を発したり、発言をミュート(消音)したり、強制的に接続を遮断したりすることができます。

面会交流のあり方は親子によりさまざまですが、離婚の際に、面会の頻度、時間、方法(対面、スカイプ、メール等)、子どもの引渡し方法や宿泊の有無などを具体的に取り決めておくことが、その後の行き違いやトラブルを防ぐことになります。取り決めたことは離婚協議書等に残すことが大切です。

別居や離婚に至るほどの夫婦間の葛藤が高かった場合、当事者間で子どもとの面会交流に関する取り決めがなかなか上手くいかないこともあるようです。中央当局に申請のあったもののうち、父母の国籍が異なるケースでは、父母間の面会交流のあり方に対する文化的価値観の差が大きいと感じることもあります。文化の差や個々の様々な事情はあると思いますが、お互いの文化の差を理解し、「子の利益を最も優先して考慮」しながら父母間の合意を形成することが重要だと思われます。夫婦間の信頼が薄れ、面会交流の取り決めの解決が長引いた場合、間に入っている子どもにも影響があります。

※コラム内の説明には、専門・法律用語ではなく、できるだけ分かりやすい表現を使用しています。正確な用語や詳細については外務省ハーグ条約室のホームページをご覧ください。

2020年12月 8日更新

ハーグ条約について知りたい方は以下をご参照ください。

Information

広報班外務省ハーグ条約室(外務省ハーグ条約室)

日本では2014年4月1日にハーグ条約が発効しました。ハーグ条約では各締約国に中央当局の設置を義務づけており、日本では中央当局を外務大臣とし、その実務を外務省ハーグ条約室が担っています。

ハーグ条約室では、少しでも多くの方に正しくハーグ条約について理解してもらうべく、国内外で広報活動を行っています。

ハーグ条約について様々な角度から解説していきます。ご不明な点がありましたら、以下までお問い合わせください。

外務省ハーグ条約室

日本、〒100-8919 東京都千代田区霞が関2丁目2-1
TEL:
+81-3-5501-8466
EMAIL:
hagueconventionjapan@mofa.go.jp

次回のコラム

COMING SOON
  • よくある質問2