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一方の親の同意がないにも関わらず、子どもと別の国に移動することはハーグ条約の対象になり得ると説明してきましたが、中には配偶者からの暴力などから逃れるために、やむを得ず日本に帰国される方もおられると思います。日本とは異なる言葉、文化、環境の中で生活をするだけでも大変なことだと思いますが、さらにDVのような問題がある場合、被害を受けている方の身体的・心理的負担は計り知れません。
日本に帰国をするという決断をする前に、またハーグ条約上の問題の予防の観点からも,現地のDV被害者支援団体に支援を求め、解決のための方法を探るという選択肢があります。北米には日本語で相談ができる窓口が複数ありますので,一度ご相談するのも一案だと思います。(被害にあわれている方へ)
外国で生活するDV被害者の方がお困りのことを理解するために、ロサンゼルスでDV被害者支援に携わっているLittle Tokyo Service Centerのケースワーカーの方にDVについて話を伺いました。2回にわたりインタビューの内容を紹介します。
DVとは親密な関係にある人が何らかの方法を使って相手をコントロール(支配)することです。親密な関係とは同性、異性に関わらず、配偶者、元配偶者、交際相手、元交際相手、同棲相手、元同棲相手との関係を示します。DVに該当する行為は以下のように様々な形態があります。
DVは心身の健康に大きな影響を与えます。身体的DVはあざや切り傷、骨折、火傷、鼓膜、目、歯などの損傷につながります。時には一生治らない傷を負わされ、傷が治っても頭痛、背部痛などの慢性疼痛、食欲不振、体重減少、不眠、高血圧、免疫状態の低下、吐き気や体の震えなどの後遺症に悩まされることもあります。妊娠中のDVは母体への被害だけではなく、早産や胎児仮死、出産時低体重を引き起こすこともあります。身体的暴力は影響が目に見えることが多いですが、精神的暴力は心にダメージを受けるため、周囲から判断しにくいものです。DV被害者の精神健康障害はうつ病と心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されることが多く、自殺傾向、不安障害、アルコール依存症や薬物乱用につながることもあります。また暴力を振るわれ続けることにより、不安や絶望感から極端に自信を喪失したり、過度に自分を責めたり、人を信用できなくなったりします。社会的な影響としてはパートナーから行動を制限させられることにより孤立を深め、就職の機会を奪われる、親族や友人との関係が悪くなることがあります。DV加害者から逃れ、安全な環境に移ったとしてもうつ病やPTSDは長引くことがあり、長期的な視点に立ち、息の長いケアが必要となってきます。失われた自信や意欲、主体性を取り戻すことが回復の大きなポイントとなります。
DVが子どもに及ぼす影響もとても大きいと言われています。パートナー間の争いは子どもにとっては夫婦間の問題ではなく、家族間の問題であり、親の暴力を見聞きしながら家庭の中で日々暴力にさらされながら育つことは、子どもにとって心理的虐待を受けていることになります。子どもの前では喧嘩をしていないし、子どもは小さいのでまだ暴力だと認識していないと言う相談者もいますが、子どもは親が思っているよりも暴力の存在に気が付いています。直接、暴力を目撃していなくても、言い争う声や物が壊れる音を緊張して聞いているのです。また、その影響がどんな形でいつ表面化するかは様々です。DVは母親の妊娠中に増加する傾向があり、暴力は胎児の発育に悪影響を与えます。幼児期には、極端な分離不安や攻撃性、夜泣き、夜尿などが起こります。子どもが自分の髪の毛をむしるようになったという相談もありました。友人ができない、勉強ができない、不登校になる、摂食障害がある、先生に反抗的な態度をとるなどの学童期の問題行動の背景に両親のDVがあることがよくあります。両親の不仲を自分のせいだと責めて、罪悪感や無力感を持つ子どももおり、母親の身の安全を案じて不登校になるというケースもあります。長じて、いじめ、自傷行為、アルコール、薬物依存、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、非行へと繋がっていく場合もあります。
そして、DVには暴力が世代から世代に伝わっていく暴力の世代間連鎖があると言われています。 子どもは身体的暴力の恐怖を感じるだけでなく、両親間の不均衡な力関係を感じ取り、暴力を学習します。父親から母親に対するDVがある家庭で育つと、 要求や欲望は暴力で解決すれば良いのだと学習し、母親のことは暴力で言うことを聞かせても良いという女性蔑視の考え方が刷り込まれます。このような力関係を学習することにより、男の子はDVの加害者に、女の子はDV被害者になりやすくなります。暴力と愛情の見分けがつかなくなり、信頼感が育まれないまま、対人関係を築くことが難しくなることが少なくありません。
ロサンゼルス在住の日本人のDV被害者が直面する問題には、言葉の壁、社会構造の違い、離婚、移民法、住居、経済に関する問題、そして 支援環境の少なさがあります。
日本で結婚、生活している時には問題はありませんでしたが、アメリカに来てからDVが起こるようになり混乱しているという相談がよくあります。そこには相談者の英語力の限界から来る力とコントロール(支配)の構造が見られます。日本ではどこに行くにも何をするにも自分ひとりで出来ていたことが、アメリカでは言葉の壁から英語が堪能な配偶者に頼らざるを得なくなります。公共交通機関が日本ほど発達していないアメリカでは、地域によっては車なしでは買い物にも行けません。情報やサービスを得るにも英会話ができないことは大きな障害となります。一方、加害者はアメリカの文化や習慣をよく知り、地理にも詳しく、コミュニケーションに何の問題もありません。そこで何をするにも加害者を頼らざるを得なくなるのです。DV加害者はその力の上下関係を使いパートナーのコントロールを始めます。配偶者からの暴力に危険を感じて警察に通報したところ、英語力不足から日本人被害者の主張が通じなかったという話も聞きます。
国際結婚の場合、米国国籍の配偶者にグリーンカードのスポンサーとなってもらい永住権を得ることが一般的です。申し込みから永住権の取得までの間に配偶者がサポートを切るなどと脅してくることもあります。弱い立場を利用した配偶者からのコントロールです。滞在許可がないために、加害者から離れても働く権利がなく、家も借りることができないという問題が起きてきます。
また、離婚を検討しているが、何から始めたらよいのか分からないという相談もよくあります。日本人被害者がアメリカの法律やシステムが分からないのに対し、加害者側は財力があり、法律にも詳しいため、被害者が不利な状況に追い込まれることもあります。また、裁判所や他の相談機関でも英語でうまく説明することができないため、自分の言い分を理解してもらえなかったと訴える被害者もいます。
日本に住んでいた時やアメリカに留学や旅行をしていた時にパートナーと知り合い、アメリカに移住することになった相談者のほとんどがアメリカに親や親戚はいません。言葉の問題に加えて、配偶者から行動をコントロールされているために、友人ができず、周りの支援を得ることが難しくなり、様々な困難が生じます。夫の死亡後の手続きが分からないと相談に来た方から、夫から外出を許されず、何年も家の壁だけを見て過ごしてきたという話を聞いたこともありました。この方は自分が被害者であったことさえ自覚をしていませんでした。また携帯電話をチェックされているため、電話の返信はしないで欲しいという相談者がよく見受けられます。危険が迫っている相談者にはシェルターの情報を提供し、入居を勧めるのですが、本人の気持ちは一進一退し、連絡が途絶えて後押しができないことにもどかしさを感じます。
DVにはサイクルがあります。緊張期はそろそろ暴力が起こりそうだと被害者が感じ、緊張と不安な気持ちで過ごす時期です。そして、爆発期に加害者の怒りのコントロールが出来なくなりひどい暴力が起こります。その時期に被害者から相談を受けることが多くあります。しかし、その後のハネムーン期に加害者は過剰なまでの愛情表現をして、もう絶対暴力を振るわないと約束します。このサイクルが被害者を混乱させ、自分にも非があったのかもしれない、もう一度やり直せるかもしれないと思い込ませてしまい、支援先への連絡を絶ってしまうのだと思われます。
次回はDV被害者の方が相談できる場所、安全を確保するためにできること、Little Tokyo Service Centerから日本人被害者に伝えたいことなどについてお聞きしたものを紹介します。
Updated on 2020/ 7/ 31
日本では2014年4月1日にハーグ条約が発効しました。ハーグ条約では各締約国に中央当局の設置を義務づけており、日本では中央当局を外務大臣とし、その実務を外務省ハーグ条約室が担っています。
ハーグ条約室では、少しでも多くの方に正しくハーグ条約について理解してもらうべく、国内外で広報活動を行っています。
ハーグ条約について様々な角度から解説していきます。ご不明な点がありましたら、以下までお問い合わせください。