コラム

アメリカ移民法・ビザ申請の基礎

2023年 6月 6日更新

第96回 : 市民権取得のメリット・デメリットは?

Q

アメリカ永住権を取得して10年以上たちます。同じくらい長くアメリカで暮らしている周りの人の多くが市民権を取得しているので、私も申請を考えているのですが、市民権取得によってどんなメリット・デメリットがあるのを知りたいです。人によって言うことが異なるので、いまだ決断できずにいます。市民権申請を行うべきかどうかを判断するのに参考になる情報を頂けないでしょうか。

A

本コラムでは、アメリカの市民権を取得することのメリット・デメリットや条件、手続きについて説明します。

市民権のメリット

まず、市民権になるメリットは、選挙権を持つこと以外に、アメリカ国外に滞在した場合でも、その権利を喪失しないということです。

グリーンカード保持者の方の場合は、アメリカから連続して180日以上出国し続ける、あるいは5年のうち合計で半分以上はアメリカに滞在していなければグリーンカードを喪失する可能性があります。後者の場合、実際には仮に5年のうち半分以上アメリカ国内で滞在していても、アメリカ国外での滞在日数が5年の半分に近いような場合(以下の例を参照)はグリーンカードを「喪失してしまう可能性」があります。

例: 過去2年のうち、アメリカから連続で180日以上出国し続けていなくても、ほとんどの期間をアメリカ国外で滞在しているようなケース

ここで言う『喪失してしまう「可能性」』とは、上記の条件を満たしていないことで必ずしも(自動的に)グリーンカードを喪失するという訳ではありません。実際にはアメリカに再入国する際に、入国審査官の裁量で判断されます。もしグリーンカードを取り上げられる判断がされた場合は、その場で放棄するか、コンテスト(Contest)を行い裁判所で「アメリカの居住を放棄していないことを主張する」かを選択することになります。従って、上記の条件を充足することができない場合は、再入国(Re-Entry) を申請する必要があります。

再入国許可証(Re-Entry Permit) の有効期限は2年で、2回以上の更新(4年以降)の場合は、1年ごとの更新になり、また、更新の申請はアメリカ国外で行うことはできず、更新(および指紋採取)のたびにアメリカに戻って行う必要があります。アメリカ市民権を取得した場合は、このような条件に振り回されることなく、アメリカの居住権を保持することができます。

さらに、これは、あくまで推測の域を超しませんが、将来的にアメリカ市民権を保持していないと、ソーシャル・セキュリティーのベネフィットを失う可能性(あくまで可能性)があるということです。20年以上前にこの法案が上がり、結果的には議会を通過しませんでしたが、その当時、多くの人がアメリカ市民権の申請を行い、市民権を取得するのに約4年もかかったという経緯があります。

市民権のデメリット

アメリカ市民権を取得するデメリットは、グリーンカードに比べて放棄することが難しい場合があることです。グリーンカードを放棄する場合は、申請書にグリーンカードを添えて移民局に郵送するだけですが、アメリカ市民権の放棄には、出国税(Exit Tax)の問題があります。個々のケースにより異なるので、会計士、税理士に相談するのがベストですが、簡単に言うと、アメリカで所持している全ての財産が納税対象になるということです。

また、日本の戸籍法では、他国の国籍を取得した時点で、どちらかを選ぶのではなく日本国籍を放棄したことになると記載されています。さらに、再度起こることは考えづらいですが、新型コロナウイルスによるパンデミックの間、日本にアメリカのパスポートで入国するには、ビザの取得が必要でした。

最後に、アメリカ市民権を取得した場合は、陪審員、裁判員の義務(Jury Duty)があります。アメリカ市民権を申請する資格としては、まず永住権を取得してから5年(アメリカ市民と結婚した場合は3年)を経過している必要があります。申請は、期間満了の3カ月前から申請を開始することができますので、永住権を取得してから4年9カ月(アメリカ市民と結婚した場合は2年9カ月)を経過していれば申請の開始が可能です。ただし、永住権を取得してから5年(アメリカ市民と結婚した場合3年)の期間が経過するまで、宣誓式には参加することができません。ただ、実際には3カ月以内に宣誓式にいたることはほぼあり得ないので、ここに注意する必要はまずないと言えます。

また、この規定期間(5年ないし3年)のうち、合計してその半分(5年の場合は30カ月)以上はアメリカに滞在していなければなりません。また、この規定期間の間に連続で180日間アメリカ国外に滞在したことがないことが条件になります。180日以上連続でアメリカ国外に滞在している場合の例外規定はありますが、アメリカの軍隊に属していたり、アメリカの政府機関あるいは宗教関連等の目的であったりしない限り、認められるのは一般的に困難であると言えます。

市民権の申請にかかる期間は1年前後で、指紋採取の後、面接や宣誓式に参加することになります。

あなたの場合は、上記のメリット・デメリットを考慮し、あなたの将来設計に合った判断をされることをお勧めします。

注意事項 : コラム内で提供しているビザ・移民法に関する情報は一般的な情報であり、個人の状況や背景により異なる場合がございます。的確な情報詳細につきましては、移民法専門の弁護士にお問い合わせください。

2023年 6月 6日更新

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Columnist's Profile

CEO/Attorney
瀧 恵之瀧法律事務所 Taki Law Offices, A Professional Corporation

新潟大学法学部卒業。日本の法律事務所に勤務の後、インディアナ大学大学院卒業。20年以上に渡り、移民法の分野で活躍。常にクライアントの立場に立った柔軟なアドバイスが特徴。

瀧法律事務所 Taki Law Offices, A Professional Corporation

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