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「あおもり歴史トリビア」第603号(令和6年5月31日配信)
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〈青森市メールマガジン〉
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みなさん、こんにちは。文化遺産課の石戸谷です。
田植えが終わるこの時期、青森市内では、太鼓をドンドンと打ち鳴らしながら、権現様(ごんげんさま)と呼ばれる獅子頭を持って家々を訪れる「権現様まわし」という行事を行う地区があります。
これは、神格化された獅子頭を「カタカタ」歯打ちすることで悪疫を退散し、また人々の頭を噛むことで、無病息災や厄除けを祈願するものです。現在では、町会単位や、地区の有志によって行われていますが、以前は、地区の若者たちが中心に行っていました。
私が平成14年(2002)に横内地区で調査した事例は、ウエジメと呼ばれる地区の田植えが終わった6月上旬に行われました。普段権現様を祀っている神社を出発し、大幣(おおぬさ)を持った太夫と呼ばれる神主役を先頭に、権現様と太鼓、祈祷札を持った女性たちが続きました。太鼓を打ち鳴らしながら地区をまわり、歯打ちをしたり、太鼓の音を聞いて玄関先に出てきた人の頭を噛んだりしました。途中神主役は、村はずれに御幣を立てて、集落に悪疫が入らないことを祈り、女性たちは、害虫除けとして田んぼの水口(みなくち)に立てる虫札(むしふだ)を配って歩きました。
『新青森市史』別編3民俗や『市史叢書 民俗調査報告書』1〜6集には、平成10年頃に調査された市内各地の事例が報告されています。油川地区では1月11日に行い、各家の前で歯打ちをして悪魔祓いをしました。後潟地区では、1月5日と盆の8月16日の年2回のほか、新築した家でも行いました。野尻地区では、この行事を悪魔祓いともいい1月2・3日に行いました。荒川地区では、1月2日、地区の田植え後、秋の収穫後と3回行い、正月に行うものは、春祈祷といいました。久栗坂地区では、調査時点では既にやめていたものの、以前は春祈祷として権現様が家々をまわって歩いたそうです。
さて、権現とは、神仏習合(しんぶつしゅうごう)においては、仏(ほとけ)が化身して日本の神となって現れることをいいます。なかでも山伏(修験者)が布教の手段として演じた神楽では、獅子頭を神格化して権現様と呼ぶことが知られています。山伏が演じた神楽は、民俗芸能の研究上では「山伏神楽」と呼ばれ、現在でも岩手県から青森県の南部・下北地方にかけて色濃く伝承されています。これらの地域で山伏たちは、権現様と称する獅子頭を携えて村々をまわり、笛・太鼓・鉦の囃子とともに、門付けや神楽を演じました。なかでも春先に行うものは春祈祷と言います。山伏神楽の権現舞による儀礼には、悪魔祓い・火伏せ・新築の家の柱固め・病人祈祷・墓獅子などがあり、権現様の歯打ちは、極めて効能があるものと信じられました。
今回取り上げた青森市内の権現様まわしは、いずれも太鼓を打ち鳴らして歯打ちをする程度で、特定の演目や芸態は残っていません。しかし、獅子頭を権現様と呼んで歯打ちを行い、春祈祷や悪魔祓いともいい、新築の家でも行うという共通点から、山伏神楽との関係を考えずにはいられません。
この風習が、いつどのように青森市周辺に伝わったのかは明らかではありませんが、津軽地方における山伏神楽の片鱗を示すものといっても過言ではないでしょう。
《問合せ》
青森市民図書館 歴史資料室
青森市新町一丁目3番7号
TEL:017-732-5271
電子メール: rekishi-shiryo@city.aomori.aomori.jp
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