私が子供だった70年代は、「普通の子供」 は矯正などしていなかった記憶があります。 私の通っていた小学校でも、矯正装置をつけていた子供は、1,200人もいた全校生徒のなか、片手で数えられる程でした。
私の父は矯正専門医でしたが、自分の子供に矯正を強いることもなければ、話すらしませんでした。 私の歯は幸い大きな問題もなく大方そろったのですが、歯学部生だった時代には何故矯正治療を父が強いてくれなかったのかと残念にさえ思いました。
当時はエッジワイズなどといわれる矯正方が主流で、いわゆる金属製のワイヤーを歯医者さんが曲げて負荷を歯にかけて動かすといったやり方で、口の中がどちらかというと 「針金だらけ」 といったイメージがありました。 しかも口の周りにもワイヤーや器具(写真1)をつけなければいけない子供たちもいて、周りの子供たちにはまるで 「宇宙人」 のように見えていたのではないかと思います。
その後90年代に入って、形状記憶合金を使った 「ストレートワイヤーシステム」 (写真2b) と呼ばれる画期的な矯正治療へと変わっていきました。 これは一本のまっすぐなワイヤーだけを使って行う治療法で、今までの 「針金だらけ」 のイメージ (写真2a) を一掃するシンプルでしかも効率のよい治療法です。 ニッケルチタン合金が形状を記憶するといった性質があるのを利用し、それを基に歯に負荷をかけて歯列を動かすといったやり方で、今の歯列矯正治療の主流となっています。
今日、矯正治療は若い世代ではほぼ当たり前のように行われるようになってきました。 私の子供の頃の様に1,200人の学校で矯正治療している子供が5人もいなかった時代から考えると、大きく移り変わり、歯列矯正法は2000年までには確立されたものとなっていました。
ところがミレニアムになってから、Invisalign® (写真3)といった新手の治療法が出てきました。
これは歯にワイヤーで負荷 (トルク) をかける代わりに、ステントとよばれる透明の歯列フィルムによって負荷をかけ歯を動かす治療法です。 他人には矯正治療しているのがわからず、治療期間も従来の方法と比べて短くてすむのが特徴です。 その為今まで矯正治療など考えもしていなかったという新たな成人層の間で矯正治療がひそかにブームを呼んでいます。 下顎の前歯だけが込み合っている場合、あるいは上顎の前歯が少しだけねじれている、などといったほんの少しだけ何とかならないだろうかなどと思いながら諦めていた患者さんには、うってつけの治療法といえるでしょう。 また若い時に矯正治療をしたのだけれど、またずれてしまった… といった患者さん等、今更また矯正治療するのはとためらっていた方にも最適でしょう。
インビザラインは従来の歯列矯正とくらべて次の様なメリットがあります。
- 人知れず矯正治療を始められる。
- 従来の矯正治療よりも飛躍的に短期間で治療が可能である。
- ワイヤーの交換時に起こりうる痛みがない。
したがって、若い方はもとより、40代、50代の方も気軽に始める事が出来ます。
手法はまず歯形を取り、それをインビザラインの技工所に送ります。 2週間程で患者さんの治療シミュレーションが送られてきます。 それを患者さんと一緒にオンライン上で確認をします。 問題がなければ直ちにアライナーの製作に入ります。 10日程ですべてのアライナーが完成しスタートという事になります。
従来、成人の歯列矯正というのは、2年から3年という長い期間を必要とするのですが、インビザライン矯正の多くは4~9ヶ月の間という短い期間で治療を終わらせる事が可能です。