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「床でほうきを掃く」「布をたたむ」というのは、モンテッソーリ教育の「日常生活の練習」というカリキュラムの一部で、他にも以下のような「練習」がたくさんあります。

• 水をガラスのコップに注ぐ。
• 線が描かれた紙を切る。
• 金属でできたものをピカピカに磨く。

さらに、どのように食べ物を用意するか、どうやって服を着るか、どんな風に周りの環境を整えてきれいな状態に保つのかなど、さまざまな活動を文字通り「練習」していきます。一見すると、これらはしつけのようです。当園ではしつけを重んじる日本人や日系人のご家庭のお子さんも多く、実際、親御さんの中には、子どもが自分で自分のことができるように、当園がこのような作業をさせていると思っていらっしゃる方も少なくありません。確かに「日常生活の練習」には、しつけ的な意味合いもあるのですが、それだけではないのです。

モンテッソーリ教育における「日常生活の練習」の最たる目的は、コーディネーション（協応動作）です。ここでいうコーディネーションとは、人間の体の複数の部位や器官、機能を同時に使うことです。例えば「床をほうきで掃く」場合は、①ほうきを適切に持ち、②床の上のゴミやほこりを掃く、という2つの行動を同時に行わなければなりません。手足だけでなく目などの五感も使うので、こういった行動をしている時、子どもの脳と体は大きな刺激を受けています。つまり、発育や発達にとても重要な行動ということです。

「日常生活の練習」で行う作業には、おもちゃやワークブックなどを使ったものはありません。「注ぐ」「掃く」「拭く」「磨く」といった、ごく一般的な活動です。普通ならおもちゃやワークブックの方が刺激的で楽しそうですよね。ところが、ご質問にもありましたが、息子さんがうれしそうにお母さんに報告してくるのは、相応の理由があるのです。

幼児教育において、0～6歳はいろいろな能力が開花し発展する年齢です。年齢ごとに発達の内容は異なりますが、0～3歳は人間に必要なスキルや能力、特に身体的なことが大きく発達する「アダプテーション（適応）」の時期です。つまり、息子さんは、年齢に応じた発達に伴い、今まさに人間の必要な活動に大きな興味と関心を持っているのです。そしてそれらの活動が、「注ぐ」「掃く」「拭く」「磨く」というわけです。同時に、「日常生活の練習」には、「集中力」「自立心」「意志の確立とコントロール」といった知的な能力を育む、とても大切な意図もあります。この知的な能力については、次回の後編で詳しくお話ししたいと思います。

「日常生活の練習」の内容は、家庭や幼稚園で必要な活動なので、できて当たり前と思ってしまったり、親御さんが必要以上に手助けしたり、代わりにやってあげたりすることもあるのですが、実はこれが子どもの発達を阻む原因になることがあります。ですから、「日常生活の練習」の重要性については、親御さんの理解がとても大切になってきます。

次回は、なぜ「日常生活の練習」が、子どもの将来の成功のカギになるかについて、ご説明致します。