Column

アメリカ移民法・ビザ申請の基礎

Updated on 2022/ 1/ 5

Vol.79 : コロナ禍で会社が株式売却!L-1ビザは保持できるの?

Q

私は、現在、L-1ビザで日系企業に勤めています。このたび、会社がパンデミックの影響もあり、米国の投資家に株式の大部分を売却することになりました。このような場合、私はL-1 ビザを保持しアメリカに滞在し続けることができるのでしょうか。家族もあり、特に子どもは現地の学校に通っているので今後のことが配です。

A

L-1ビザは、日本にある会社(親会社)から米国内にある会社(子会社)に派遣される人のためのビザです。このビザの主な条件は、米国にある子会社の(原則的に)50%以上を日本にある親会社あるいはその株主が、直接的あるいは間接的に所有していること、また、申請者が申請前の3年間の内、1年間以上は親会社あるいはその関連会社において管理職(L-1A)または特殊技能者(L-1B)として勤務していることなどが挙げられます。

前トランプ政権においては、ビザの審査基準に関して大企業を優遇する方向性が見られ、特にLビザの審査基準においては中小企業にとってはかなりの難関になっていました。具体的には、売り上げだけでなく従業員の数が重要な要素となり、それまでは従業員の部下が3人ほどで認可されていた案件でも7~10人以上の部下を必要とする場合がほとんどでした。そのため、仮に L-1 ビザの延長申請であっても却下されてしまうこともあったほどです。

しかしながら、バイデン政権に代わり、大企業のみ優遇の傾向は薄れてきているように思えます。L-1ビザに関しても、若干ではありますが緩和の傾向が見られ今後が期待されるところです。さらに、更新に関してもトランプ政権下では過去に認可されている事実は考慮されず、更新の際であっても新たに審査がされるとされていましたが、バイデン政権においては更新の際は以前の認可を考慮するとされるようになりました。

さて、本件に関してですが、L-1ビザのスポンサーとなっているアメリカの会社(子会社)が、株式を売却した場合、その会社がスポンサーとなり続けることができるかどうかは、日本にある親会社と売却後の米国の会社との関係が、移民局が定義するところの「親会社」と「子会社」の関係に当たるかどうかということになります。もし、この条件を満たしていれば、L-1ビザは保持できますし、またそうでなければ失効してしまう可能性があります。

移民局では、日本にある会社が子会社の株式売却後も米国にある会社を「所有」しているかどうか、また「指示を与え、規制・監督」する立場にあるかどうかということが審査の対象となります。つまり移民局は「所有権」が「指示を与え、規制・監督する十分な権限の法的所有」を行っていることとし、「指示を与え、規制・監督」することについては「事業体の経営および営業を管理・監督する権利および権限」と定義しています。さらに移民局では、株式売却後も親会社と子会社の関係において、親会社が実質的に子会社を「所有」しており、また「指示を与え、規制・監督」する立場にあれば、その「所有」関係および「指示を与え、規制・監督」する程度に変更が加えられること(親会社の所有する株式の割合や監督体制が変わるなど)は構わないとしています。また、これには二つの会社間で「所有」の割合および「指示を与え、規制・監督」する程度を同じくする50/50の合併会社も含まれるとされています。ですから、あなたの場合、あなたの会社が50%以上の株式を投資家に売却しなければあなたはL-1ビザを保持し続けることができます。

ただし、あなたの所属する会社の親会社が、合併後50%以上の株式を所有しなくなる場合(半分以上の株式が売却されたような場合など)は、実質的な「所有」の条件を満たさなくなるので「指示を与え、規制・監督」する程度においても実質的に50%を下回る場合は、ビザ・ステータスを失う原因となります。ただ、50%以上の株式を所有していないよう場合であっても、投資家があくまで投資目的だけであって経営に参加する意思はなく、子会社自身がその投資家から株主総会においての投票権の代理委任を得ており、あなたの会社が実質的な経営権を握っているような場合(例:Class B Share-投票権のない株式)は、それを証明することによってL-1ビザを保持することができる可能性があります。

移民局の規制においては、上記のように会社の構成自体に変更があった場合、申請書の変更を義務付けていますが、小さな変更であれば、L-1ビザの延長手続き時に報告するのみでよいとされ、重大かつ実質的な変更が行われた場合にのみ、即時の報告する必要があるとされています。

あなたの場合、会社が株式を売却した後、上記の条件でL-1 を継続して保持できるか否かを判断するのが先決です。もし、上記の条件を充足できないような状態になる場合は、株式譲渡がいつ完了するかを知ることが重要です。株式の譲渡は、一般的に相当の時間が掛かる場合が多いため、その間にかなりの制限があるものの、他のビザ(H-1Bなど)に切り替える方法を考える、あるいは永住権の申請も視野に入れて考えた方がよいかもしれません。

永住権の申請では、申請途中で、仮に株式の譲渡が行われたとしても継続して手続きを進めることができます。もし、株式譲渡手続きが完了するまでに、グリーンカードの取得ができなかったとしても、例えば申請途中でI-485という申請書を移民局に申請できる時点までくれば、L-1失効後も継続してアメリカに滞在することができ、また、その後に就労許可が発行されれば就労を再開することも可能です。そして、この I-485 の申請がL-1失効時までに間に合わなかったとしても、いったん日本に戻り日本のアメリカ大使館での面接まで待ち、面接後移民ビザでアメリカに戻る方法も考えられます。移民ビザでアメリカに入国すれば、入国の際にパスポートにスタンプが押され、その時点より就労が可能になります、グリーンカードは、その後1~3カ月程度で指定した住所に郵送されることになります。

注意事項 : コラム内で提供しているビザ・移民法に関する情報は一般的な情報であり、個人の状況や背景により異なる場合がございます。的確な情報詳細につきましては、移民法専門の弁護士にお問い合わせください。

Updated on 2022/ 1/ 5

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Columnist's Profile

CEO/Attorney
瀧 恵之瀧法律事務所 Taki Law Offices, A Professional Corporation

新潟大学法学部卒業。日本の法律事務所に勤務の後、インディアナ大学大学院卒業。20年以上に渡り、移民法の分野で活躍。常にクライアントの立場に立った柔軟なアドバイスが特徴。

瀧法律事務所 Taki Law Offices, A Professional Corporation

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