Column

心のケアと癒しに役立つ臨床心理のここだけのお話

Updated on 2022/12/ 28

Vol.16 : トラウマの治療

前回のコラム「トラウマについて」で、トラウマのメカニズムなどをご説明いたしました。今回は治療法についてです。

サポートを受けるタイミングとは

トラウマ(心的外傷)は「心が受けた傷」のことです。事故やイジメなど、程度にかかわらずその経験が脳にトラウマとして刷り込まれると、その後の生活に支障をきたしてしまうケースも少なくありません。日常的につらい記憶がよみがえると、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になることもあります。脳に刷り込まれたその時の映像や体験が、その後何かのきっかけで瞬間的に再体験してしまうのです。PTSDが長く続くと「うつ」が発症しまう人もいます。

生来、人間には何かトラブルが起こってもそれに抵抗できる精神力が備わっています。一度や二度の経験なら、多少時間がかかっても乗り越えることができるのですが、何度も体験すると諦めや無力感を感じるようになります。こうなると自分の意思だけではどうにもならないことが多く、周囲の助けや、場合によっては専門家に相談した方がよいケースもあります。

特に、自分を責める傾向がある人は、脳の中でトラウマが書き換えられてしまうこともあります。例えば、交通事故のトラウマがある人が「なぜ、あの日に限って車に乗ってしまったのか」「なぜ、あの道を選んでしまったのか」など、起こった出来事に対して“自分が悪い”という風に考えてしまうと、トラウマはひどくなってしまいます。こういった場合も専門家のサポートが必要になります。

トラウマ治療について

手をカッターなどで切ってしまった場合、絆創膏を貼ったり病院に行ったりして治療をします。ケガの度合いに応じて数日で傷が跡形もなく消えることもあれば、少し傷が残ることもあるでしょう。同じように、トラウマも目には見えなくても心に傷が付き、程度によっては傷が自然に消えたり薄くなったりすることはありません。

治療を受けてもトラウマの記憶そのものを完全に消すことは難しいのですが、そこに付随している恐怖や不安などネガティブな感情を削り取ることは可能です。

専門家による治療法

基本的に全ての治療において重要な鍵となるのが「リソース」です。リソースとは自分の中にある“資源”のことで、自信を芽吹かせる種のようなものです。種には、もともとその人が持っている強さや、指針、成熟度などのほか、好きな場所、信頼できる人などがあります)。どの治療法でも「安心」や「安全」を自分の中で作るために用いられる、最初の重要なステップです。

トラウマの治療は、記憶と共にあるネガティブな感情を手放すことがポイントです。以下に、心理療法士や精神科医などの専門家によるトラウマ治療法の一部をご紹介します。

認知行動療法

認知とは、簡単に言うと「思考」のことで、人間は物事や体験をどう認知するかによって、それに応じた感情や体の反応が起こったり、行動を取ったりします。しかし、認知はトラウマによって歪んでしまうことがあります。自分の考えていることは本当に事実であるか、もし事実でないとしたらどこがどれだけ違っているか、をしっかりと識別していくのが「認知行動治療法」です。

EMDR

EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)は「眼球運動による脱感作と再処理療法」と呼ばれ、1980年代にフランシーン・シャピロによって提唱された心理療法です。文字通り、眼球運動によって脳を刺激し情報処理プロセスを活性化していきます。科学的な根拠はないものの、トラウマの治療に非常に効果があると言われています。

ヒプノセラピー

ヒプノセラピー(催眠療法)で潜在意識の中に入り、トラウマとなった体験を書き換えていきます。セラピーで理論的に話を進めることもできるのですが、そこで問題になるのは潜在意識です。この潜在意識は感情や体とつながっていることが多いので、このプロセスがとても大切です。具体的に言うと、より深い潜在意識に入って「自分は大丈夫」「私はとても安心している」といった新しい意識を付けていくため、特にリソースが重要になります。

フラッティング法

フラッティング法(Flooding)とは、トラウマで起こる恐れや恐怖に立ち向かうやり方です。例えば、交通事故現場となった道が怖くて通れないという場合、実際にその現場を訪れ自分の気持ちと向き合います。サポートしてくれる人と行ったり自分の中でリソースを付けてから行くと、うまく切り替えができることが多いです。

今回は、トラウマ治療の一部をご紹介しました。前述のようにどの治療においても最も重要なことは、患者さんに「安心」や「安全」を感じられる場を作ることです。専門家を探す際は、自分が心から安心し、心身共に安全な環境で治療を受けられるかどうかを目安にするとよいかもしれません。

今年もご愛読いただきありがとうございました。
2023年もどうぞよろしくお願いいたします。

Updated on 2022/12/ 28

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Columnist's Profile

インターナショナル ライフサイクル ファミリーセラピーInternational Lifecycle Family Therapy Inc.

CA州心理士免許(LMFT)と博士号を持つ経験豊かな2人のセラピストによる心理カウンセリングオフィス。多くの方々のより良い心の健康を目指し、個人、カップル、家族の心理セラピー/カウンセリングを日本語および英語で提供している。仁科盛次郎(心理療法士、LMFT#50945)および菱谷有希子(心理療法士、LMFT#53262)はCA州公認のマリッジファミリーセラピストで、専門は家族・カップル間のコミュニケーション、異文化や多文化における問題、思春期における心理やアイデンティティ問題、薬物依存治療など。多種多様な家族療法を取り入れたアプローチや、物の見方を変え解決方法の発見へと導くアプローチ、催眠療法などの潜在意識セラピーを提供。また、両者ともに移民難民、性犯罪にかかわる青少年更生、薬物リハビリテーション施設での経験を持つ。大学院講師としての活動及び後輩育成にも精力的に取り組んでいる。Youtube「カリフォルニアから心の癒しチャンネル」にて心にまつわるビデオ公開中。

International Lifecycle Family Therapy Inc.

1101 South Winchester Blvd. Suite P-296 San Jose, CA 95128

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